2021.10.15
幸田 泉

高校移管に教育上のメリットなし

大阪市立の高校は大阪市の巨額公有財産なのですから、それを手放して府立高校とするのであれば、教育環境が格段に良くなるなど生徒たちにとって教育上のメリットがなくてはならないのは当然のはずです。

しかし、大阪市教育委員会は、学校数の多い府立高校の仲間入りをすることで、「効果的、効率的な学校運営を可能とする」という説明を繰り返すだけです。

これは、行政側から見て、「金のかからない高校にする」という意味にほかなりません。大阪府は大阪市に比べ、かなり財政状況が厳しい自治体です。

大阪市が市立の高校に使っている予算レベルを超えて、教育環境の充実に予算をつぎ込むとは考えられません。だから大阪市教育委員会は、「効果的、効率的」などという抽象的な表現で誤魔化すしかないのです。

大阪府の目的は市立の高校の不動産

ではなぜ、大阪府は大阪市立の高校を引き取るのでしょうか。大阪府内の 学校整備を振り返ると、1900年(明治33年)の「大阪府教育十カ年計画」の策定以降、戦後も大阪府は普通科高校、大阪市は工業科、商業科などの実業系高校という役割分担をしてきました。

今も、大阪市立の高校には工業高校、商業高校が多いのはそのためです。それらが来年4月からは府立高校になるのですが、府教育委員会には工業高校や商業高校を運営するノウハウはなく、府教委の傘下に入って高校がさらに充実、発展するとは考えられません。

大阪府は府立学校条例で「3年連続で定員割れした高校は再編整備の対象とする」と規定しています。

大阪市立の高校の中でも工業高校は定員割れしている学科が多く、今年1月に大阪府教員委員会会議と大阪市教育委員会会議で議決した「大阪府立高等学校・大阪市立高等学校再編整備計画」では、大阪市立の東淀工業高、泉尾工業高、生野工業高の3校は、「志願者状況及び今後の少子化の進行を踏まえ、1校に再編整備する」と書かれています。

これら3校も来年4月に大阪市から大阪府に移管されるのですから、移管後は廃校が規定路線です。大阪府は大阪市立の工業高校の移管を受けて、学校を盛り立てていくつもりはないどころか、「廃校して売り飛ばしてok」の許可証付き不動産を経費ゼロで手に入れるようなもの。大阪府は「濡れ手で粟」なのです。

大阪市立の高校数は1960年代には30校ありましたが、少子化の影響で高校の生徒数が減少し、大阪市は市立の高校数を減らしてきました。今後も、高校の統廃合はやむを得ないレベルで子供の出生数は減少しています。

しかし、廃校にした高校の跡地をどうするのかは、地元住民の意向を聞きながら大阪市が決定するのが当然です。繰り返しますが、市立の高校の土地を取得したり、校舎を建設する費用は、大阪市民が大阪市に払った市税が原資だからです。

市立の高校を売却した代金は大阪府の収入に

今の大阪府と大阪市の方針ならば、定員割れを理由に市立の高校を廃校にして不動産を売却した場合、その代金は大阪府の収入になります。大阪府がその売却益を大阪市民のために使う保証はありません。もとは大阪市民が大阪市に納めた税金で作った高校なのに、少子化の影響で廃校になれば跡地の売却益は大阪市民の手の届かないところに行ってしまうのです。

このようなことから、「大阪市民の財産を守る会」は住民訴訟を提起しました。市立の高校の府への無償譲渡は「市民の財産を投げ捨てる」という暴挙です。大阪市民には何のメリットもありません。

次号では、市立の高校の無償譲渡にはどんな法律違反があるのか、という点を述べます。

次号記事はこちら↓

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