2020.07.30
都構想調査委員会

政令市である大阪市を廃止し、複数の特別区に分割・設置するいわゆる「大阪都構想」の根拠となる法律は、「大都市地域における特別区設置に関する法律(以下、「特別区設置法」と略)」です。この法律は2012年8月29日、議員立法として成立しました。この法律ができるまでは、政令市を廃止して、特別区を設置することは法律上不可能でした。

大都市地域における特別区の設置に関する法律
大都市地域における特別区の設置に関する法律(だいとしちいきにおけるとくべつくのせっちにかんするほうりつ、平成24年法律第80号)は、道府県が大都市地域に特別区を設置する際の諸手続きについて定めた日本の法律。略称は大都市地域特別区設置法。

外部リンク
wikipedia:大都市地域における特別区の設置に関する法律

2011年11月の大阪ダブル選挙で勝利を収めた橋下徹大阪市長が、選挙で公約に掲げた「大阪都構想」実現に向けて、「維新の会」の国政進出をもちらつかせながら、与野党の国政政党に法整備を強く求めました。当時は民主党政権の末期で、参議院における野党多数のいわゆる「ねじれ」国会の中、政権運営は行き詰まりを見せていました。

政令市を廃止する法律の成立

また、「維新ブーム」を自らの党勢拡大に呼び込みたい野党、特に当時存在した「みんなの党」はその意を受けて地方自治法改正案をまとめ、旗振り役を務めました。地元の大阪においては都構想への反対論、慎重論が根強かった自民党や公明党も、民主党政権に攻勢をかける意味で同調する動きが強まり、議員立法による手続法として特別区設置法の成立に舵を切りました。この結果、同法は与野党一致の下(共産党は反対)、成立しました。

「大阪都構想」という呼称は本来、政治団体である大阪維新の会の政治スローガンで、行政用語ではありません。

大阪都構想
大阪都構想(おおさかとこうそう)は、大阪で検討されている統治機構改革の構想。大阪府と大阪市(または大阪市を含む周辺市町村)の統治機構(行政制度)を、現在の東京都が採用している「都区制度」というものに変更するという構想である。 特に、
1.大阪市を廃止し、
2.複数の「特別区」に分割すると同時に、
3.それまで大阪市が所持していた種々の財源・行政権を大阪府に譲渡し、
4.残された財源・行政権を複数の「特別区」に分割する…

外部リンク
wikipedia:大阪都構想

この法律の(目的)第一条には「この法律は、道府県の区域内において関係市町村を廃止し、特別区を設置するための手続き…」を定めるとあります。つまり政令市である大阪市が廃止され、いくつかのエリアに分割されたうえで、特別区が設置されても、広域自治体としての大阪府の呼称はそのままで「都」にはなりません。

「特別区設置法」のいくつかの問題点

この「特別区設置法」については、成立当初からいくつかの問題点が指摘されています。その代表的なものをいくつか列挙します。

「一事不再議」の原則が規定されていません

大阪市域をエリアとして政令市をいくつかの特別区に分割、設置するという特別区設置案が住民投票で否決されても、府知事、大阪市長及び大阪府議会、大阪市議会の過半数が政令市・大阪市の廃止、特別区設置に賛成であれば、理論上、何度でも住民投票が可能です。

実際に、2015年の住民投票で反対多数で否決された同じ大阪市域をエリアとする特別区設置の是非を問う住民投票が、5年後の2020年の秋に再度実施されようとしています。

一度廃止されると「政令市」に戻る道はありません

一度廃止されると「政令市」に戻る道はありません。大阪市廃止、特別区への分割は市民を二分する政治課題となっています。2015年の住民投票も極めて僅差での反対多数による「否決」でした。

前述の通り、否決されても再度住民投票の実施は可能ですが、特別区設置法には政令指定都市に戻るための方法についての記載はなく、可決された場合、たとえ設置された特別区がうまく機能しなくても、一度廃止された大阪市に戻ることはできなくなります。

隣接市の市民には住民投票の権利も保障されていません

例えば、大阪市が廃止され、特別区が設置されたとします。その隣接する一つの自治体を廃止して、一つの特別区にする場合は、議会の議決のみで決定でき、住民投票を実施する必要はありません。特別区設置法にはそう規定されています。

一つの自治体を廃止して、二つ以上の特別区を設置する場合には、住民投票が必要です。しかし、大阪市に隣接する中核市などの人口規模からみると、二つ以上に分割される可能性はなく、実質的に隣接市民に住民投票権は与えられていません。

外部リンク:大都市地域における特別区の設置に関する法律 第十三条 (e-GOV)

e-Gov 法令検索

電子政府の総合窓口(e-Gov)。法令(憲法・法律・政令・勅令・府省令・規則)の内容を検索して提供します。

投票運動の規制はありません

国政選挙や地方選挙は合法的な選挙活動が公職選挙法で細かく定められています。これに違反すると公職選挙法違反で厳しく罰せられるとともに、場合によっては当選が取り消されてしまいます。

しかし、特別区設置の是非を問う住民投票にはこうした規制がほとんど定められていません。そのため、「賛成」派であっても、「反対」派であっても、潤沢な運動資金を持つ方が圧倒的に有利になります。

この問題は、現在、憲法改正をめぐる国民投票法改正における大きな焦点の一つとして注目されています。 そのほか、例えば住民投票は公職選挙法の規定が準用されるため、外国籍住民の投票権が保証されていないことに異議申し立てをする声も上がっています。

このような、多くの問題について国会で再検討されないままに、再度、大阪で特別区設置の住民投票が実施されつつあるということも見ておかなくてはなりません。