連載:大阪の短い政治史を振り返る③「大阪都構想について」
「府市再編」の2年前に「府市合併」を推理した
だが、橋下が「府市再編」を言い出す2年前に「府市合併」を活字にした記者がいた。正直に言おう。私である。
このころ私は大阪日日新聞で『なにわジャーナリスト吉富有治 世相をブッた斬る』というコラムを書いていた。問題は、08年8月8日付けのコラム「戦略家・橋下徹 WTC購入は”敵に塩”」だった。ここで大阪市の「負の遺産」と呼ばれたWTCビル(現・大阪府咲洲庁舎)の購入を打ち出した橋下の思惑について触れている。
橋下がWTCを購入しようとしたのは、古びた大阪府庁舎の建て替え問題が背景にあったからである。その経費は約600億円。
対して、WTCビルの購入費用は161億円。コスト面だけ見れば確かに安くつく。これがWTC購入を打ち出した橋下の狙いだ。一方、コラムの最後には同ビル購入の隠れた目的を予想している。そこには「橋下知事がWTCの購入を考えているのは、単にコストの問題だけではない。道州制への前段階として、府と市、その合併をもくろんだものと私は推理している」とあり、はっきりと「府市の合併」を記している。
橋下氏の反応
このコラムを橋下が読んだことは知っている。なぜなら、本人から直接礼を言われたからだ。コラムが出てしばらくして、私はテレビの取材で橋下を府知事室でインタビューした。
そのとき橋下から「吉富さん、あのコラム、ありがとうございました」と礼を述べられたことを覚えている。同行したディレクターやカメラマンも耳にしている。
ただし、橋下が言う「あのコラム」の詳しい中身までは確認していない。橋下を「戦略家」と持ち上げたことか、あるいは私がWTC購入に賛成したことか、それとも「府市合併」なのかは今になっては知りようもない。
だが、この府市合併の文字が橋下の脳裏をかすめたのは確かだろう。果たして、それが現在の都構想につながったのか。つながったのだとしたら、「都構想反対」の論を張った私とすれば実に複雑な気分である。