連載:大阪の短い政治史を振り返る④ 最終回「大阪の10年」
当時の吉村洋文氏のインタビュー
この橋下チルドレンの中に、現在の吉村洋文大阪府知事もいた。弁護士である吉村は当時、維新の理念に共鳴して大阪市議にチャレンジしたと某雑誌の取材で私に語っていた。そのときのインタビューを私のメモから少し紹介したい。なお、Qは吉富、Aは吉村である。
Q 大阪市の市議、政治に関心を持った理由はなにか。
A もともと、国の政治や大阪の行政問題には関心があった。橋下さんが知事になって孤軍奮闘され、都構想をブチ挙げ、これで大阪は変わるかもしれないと思うようになり、自分も関わりたいと考えるようになった。大阪は変わらなければいけないと思っていたが、これまでは半ば諦めていた。だが橋下知事の登場で変革の可能性はあると思う。
Q 選挙の出馬を考えたのはいつ?
A 大阪維新の会が立ち上がったとき。既成政党は考えてはいなかった。
Q 「大阪を変えなければ」と言うが、具体的に大阪のどこを、どう変えたいのか。
A 公務員の放漫経営による借金まみれの行政、政治を変えたいと思っている。企業法務をやっていると、会社の破産や小さな会社の経営者が骨身を削って頑張っている姿を間近で見ている。常々、民間と公務員組織の差に違和感があった。
Q 大阪府と大阪市、どちらが財政的に厳しいという認識か。
A 財政的に厳しいのは大阪市だと思う。大阪市の場合、地下鉄や土地などの財産は大阪府よりは持っている。ただ、公務員体質というか、本来なら大阪市の方がより借金を減らすことが出来るはずなのに、それが出来ていない。大阪市の方が、より問題がある組織だなと思っている。
Q 実際、大阪市の公務員体質が酷いと感じられたことはあったのか。
A 大阪市職員の自己破産を受任することがあるが、そのときに恵まれた環境にあることを直に聞いている。あとは本でも読んで知っている。
Q 市会議員として最大の仕事とは
A 一般論としては大阪市の将来を見据えた活動だ。私にとっては、具体的には都構想の実現。いったん、大阪府、大阪市を引っ繰り返して、広域と基礎に分けて、スリムな行政体にすること。その改革が必要。それが私の仕事だ。
その吉村市議も、今では大阪維新の会の代表だ。
彼は衆院議員を経て大阪市長に就任、現在は大阪府知事として府民から絶大な人気を誇っている。
吉村以外にも、府議や市議から自治体の首長や国会議員になったチルドレンがいる。大阪府議団や大阪市議団などで党の要となる要職にも就いている。かつての若い世代も、現在は維新を引っ張る存在になりつつあるようだ。
ただし、このチルドレン世代がいつか暴走し、旧世代と衝突する危険性を抱えていると私は予感している。
ある他党の大阪市議はかつて、「博打の様な選挙戦に立候補し勝ち抜いた方々であることには間違いないので、運が強く、またその運を導く財力や人のつながり、野心を兼ね備えた集団なんだろうと感じる。しかし、これまでチルドレンと呼ばれてきた人たちと同様に、抽象的な『改革』の名のもとに集まった個性派集団であることには変わりないので、核分裂を起こす要素は常に持ち合わせているだろう」と述べていた。
いわゆる都構想にしても、その考え方は維新の旧世代とは異なっている。すでに都構想には冷めている旧世代に対して、橋下チルドレン世代は原理主義的に都構想を捉え、中には3度目の住民投票を虎視眈々と狙う者もいると聞く。
松井一郎が大阪市長を辞めて政界を去った後、名実ともにチルドレン世代が維新の牽引役になったとき、大阪は3度目の悪夢に襲われるだろうと思っている。(文中・敬称略)