2022.03.16
野村 友昭

現在も地盤沈下中。そんな対策で大丈夫か?

地表が泥水に覆われた道路。液状化や大雨でこうなる可能性がある。

夢洲と同じ人工島であった関西空港でも当初の想定を大幅に上回る建設費が投入された。その最も大きな要因が沖積層を中心とした「大阪湾の極めて軟弱な地盤」であった。

軟弱地盤の改良にはサンドドレーン(SD)、およびサンドコンパクション(SPC)という工法が用いられる。これは地盤に砂杭を打つことで地盤層の排水を図る工法である。関西空港では約100万本のサンドドレーンが20メートル以上の深さまで打設されたということである。

それでも関西空港は10年で10メートル以上沈下した。軟弱な粘土層の上に埋土や巨大建築物を設けるとその重みで地盤が圧密沈下する。10メートルという沈下は大阪湾の地盤がいかに軟弱であるかを如実に示していると言えるだろう。

当初から大規模な建造物を建設することを想定して埋め立てが行われた関空島ですらこの状況である。

建設当初の目的が全く異なる廃棄物処分場として埋め立てられてきた夢洲に巨大な建築物を造ることがいかに不適格であるかは説明するまでもない。

もし災害が起こっても、救助隊がたどりつけない可能性がある危険性

大阪市は夢洲の沈下を「50年で150cm」と想定しているが、この想定の範囲内に収まるかどうかも予測不能である。さらに「液状化」「地盤沈下」「軟弱地盤」はそのまま「災害リスク」として跳ね返ってくる。

液状化や圧密による地盤沈下は、津波、高潮、浸水対策にも直接影響する

大阪市は、万博・IRの会場敷地が津波水位より高いため危険はないとしている。

しかし、先に述べたように関西空港は10メートル以上地盤沈下し、阪神淡路大震災で神戸市のポートアイランドは液状化によって2メートル以上沈下した。

地震の影響で液状化した地面

東北大震災では想定を超える津波が押し寄せ防潮堤が倒壊した。平成30年9月の台風21号では過去最大の高潮により咲洲で浸水被害が生じた。

令和2年、大阪市は被害想定を見直し、夢洲の護岸を1~2メートルかさ上げする決定をしたが、この程度の対策で夢洲の災害リスクが払拭されるかは疑問であると言わざるを得ない。

また軟弱地盤は地震の「揺れ」に対しても非常に脆弱ぜいじゃくである。東日本大震災では震源から770km離れた咲洲庁舎(WTC)が長周期地震動による共振現象を起こし約10分間に渡って大きく揺れた。

これを軽減するためには建物に制振補強をすることが必要となるが、これも様々な建設コストに跳ね返ってくる
ことになるだろう。WTCでは東北大震災後の補強工事に10億円以上が費やされている。

以上、夢洲という土地が、物理的にも、防災の観点からも、いかに脆弱ぜいじゃくで危険であるかを見てきた。言わずもがな、災害リスクの高さは事業のリスクにも直結する。

沖合の孤島である夢洲はアクセスも非常に悪く、夢洲への陸上ルートは夢舞大橋と夢咲トンネルだけである。それぞれ舞洲と咲洲からのアクセスになるので、本州から渡るためには橋かトンネルを2回経由しなければならず、移動距離も非常に長い。

平時にIR・カジノへ行くためにも極めて不便であるし、発災時に避難することも、救助に向かうことも非常に困難である。

次のページ
おわりに
1 2 3 4 5 6