2022.03.16
野村 友昭

深刻な課題 その② 事業計画

二点目の課題は、極めて杜撰ずさんな「事業計画」である。整備計画にはカジノ施設の構成についても詳細に記されている。

計画によるとカジノエリアの面積は65,166平方メートル。約11,000人を収容できる広さで、このエリアにテーブルゲーム470台、スロットなどの電子ゲーム6400台を設置するとある。

先に述べたように、計画ではカジノ施設だけで年間1610万人の来場者を見込んでいる。

近隣の「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」(面積 約540,000平方メートル)の年間来場者は1430万人(2018年)であるので、大阪カジノは約8分の1の面積でUSJを上回る来場者を目指す内容だ。

テーマパークと異なり年齢制限も入場制限もあるカジノにここまでの来場があるのか大きな疑問を感じるが、それ以前に、前述の施設規模では客をさばききれないことは明白である。

年間1610万人の来場者数を単純に365日で割ると一日に約44,110人が訪れなければならない。

平日も、盆や正月も含めた“毎日”である。さらに収容人数は11,000人なので1日に客が約4回転しなければ入り切らない。

前述の通りカジノにはテーブルゲームが470台、スロットマシンが6400台置かれるので、テーブルゲームに10人が座ったとして4700人、プラス、スロット1台につき1人で6400人を合計すると、満席満員状態で11,100人となる。この状態が早朝から深夜までの24時間で4回転し、それが365日続かなければ達成できない数字ということだ。現実的とは言えない。

一方、事業計画ではカジノの収益を4,200億円としているが、これも極めて信憑性しんぴょうせいが低い数字である。

大阪市会、自由民主党・市民クラブ大阪市会議員団の福田武洋議員が2月28日の大都市税財政制度特別委員会で質疑を行っている。福田議員によると、大阪カジノがモデルとしているシンガポールのカジノと比較しても、桁違いに売上目標が過大であるという。

福田議員が示した資料では、シンガポールの最も象徴的なスポットともなっている「マリーナ・ベイ・サンズ」の来場者は年間4500万人、カジノの収益は2400億円である。またユニバーサル・スタジオ・シンガポールもある「リゾート・ワールド・セントーサ」の来場者は2000万人、カジノ収益は1300億円とのことである。

対して、大阪カジノは前述の通り来場者2000万人(IR全体)、カジノ収益は4200億とされている。

サンズに対して半分以下の来場者数で倍の収益を、セントーサに対しては同程度の来場者数で3倍以上の収益を上げるという目標だ。

大阪夢洲カジノに何か圧倒的な優位性があったとしても(ないが)、こんな目標は達成不可能である。しかし福田議員の質問に対し当局は「妥当性がある」と答弁したそうである。

大阪市の松井一郎市長はカジノから大阪府・市に年間1060億円の納付金等が入ることをカジノ・IR整備の大義名分としている。

しかしこの納付金はカジノの売上(粗利益)に応じて納付されるもので、売上が達成できなければ当然減額となる。先に述べたとおり大阪カジノの目標収益はあり得ないほど盛られているのは明らかなので、この納付金額にも全く現実味はない。

松井市長が示す1060億円という納付金の額から試算すると、大阪カジノの賭け金総額は年間6兆円~7兆円ということになる。これも荒唐無稽としか表現できない数字である。

観光庁の統計によると、訪日外国人観光客数が過去最高を記録した2019年の「訪日外国人旅行消費額」は4兆8,135億円だった。

これには宿泊費用も交通費も含まれている。しかも日本全体の数字である。

どうやって大阪カジノ1施設に6、7兆円もの賭け金を集めるというのか。大阪府・市から明確な説明はない。

大阪市はこの納付金を当て込む形ですでに夢洲周辺の整備に巨額の公金を投入しているが、整備計画を冷静に見ればこの事業がいかに危険なものかが理解できるはずだ。

非現実的な目標を掲げて、当てのない利益を求め、巨額の血税を投入し続ける大阪府・市の姿は、まさしくギャンブルに狂った亡者のようである。

次のページ
深刻な課題 その③ 地勢リスク
1 2 3 4 5 6